『どうして、それがここに?』
「日詠先生が持ってきてくれたの。」
『そういえば、彼が勤務を終えて、夜中に帰ってきた時、私は寝ていたんですけど、隣の部屋で何かゴソゴソ物音を立てて探し物しているな~って。』
「あっ、多分、コレを探していたのかも。あの日詠先生がこっそり探し物とか笑える・・・」
そう言いながら谷本さんは私にそのウエディングドレスを差し出した。
「コレ、着てもらったらメイクするね。とりあえず着替えておいてね。」
私がそれを受け取ると、谷本さんはすぐに院内PHSを白衣のポケットから取り出し、“それじゃ、外で待ってるから準備できたら呼んでね~”と言いながら、ここから出て行ってしまった。
ウエディングベールにドレス
しかもドレスを家から持ち出したナオフミさんも
おそらく事情は知っているらしい
どうやら、私がウエディングドレス姿になることは理解したけれど
今からこの格好でどこに行くんだろう?
そんなことを思いながら、廊下で待機してくれているであろう谷本さんをあまり長く待たせてはいけないと急いでドレスを着込んだ。
『懐かしいけど、ちょっとキツいかも・・』
懐かしいマーメードラインのこのドレス。
『入院中、食欲がなかった反動と授乳のせいで、退院してきてから食欲旺盛になっちゃったからな~。気をつけなきゃ・・・』
それをなんとか着終えて、普段の自分の生活に反省していると、病室のドアをコンコンとノックする音が聴こえてきた。
「伶菜さん、そろそろいい?」
『あっ、お待たせしてすみません・・・着れました。』
「入るよ~・・・っていうか、やだ~似合う~!!!!!!!」
病室入り口から私の元に駆け寄った谷本さん。
「ずっと見ていたいけれど・・・・メイクしなきゃね!」
『お願いします。』
「さあ、ここ、ここ。」
彼女に背中を押されながら照頭台の前にある椅子に腰掛けた。
その直後、彼女によってふわりと首元にかけられ、“始めるよ~”というかけ声の直後、
下地クリームらしきものが付いた彼女の指が私の肌の上を滑るように動いた。
「なんか、じ~んとくるな~」
『じ~ん・・ですか?』
「伶菜さんが城北病院に入院していて、日詠先生も暫く休んでいたことがあったじゃん?その後、日詠先生が久しぶりに出勤して来た時のことを想い出してさ。」
私が陽菜を出産した時に羊水塞栓症という生死に関わる病気に罹患し、入院していた時の話・・・かな?
「いつもは、業務に関することをわかりやすく簡潔に話す程度で、私達の前では自分の想いとか語ったことがなかった日詠先生がね・・・・・“ありがとう”とお礼を言いながら、自分の想いを口にしたこと。」
『・・どんなことを話したんですか?・・・彼は。』
「正直、苦しくて不安だった・・・だけど、皆さんに支えて頂いたおかげで、とても大切で尊い時間を過ごせました・・ありがとう・・・って。」



