「じゃ~ん。谷本セレクトのメイクボックス!」
『メイクボックス?』
「そう♪・・・ヘアメイクアーティスト仕様のメイクボックス!フェイスカラー、リップカラー、アイカラーにチーク。それにマスカラも数種類の色を用意していて。プロでも充分なぐらいなものが入っているんだっ!もちろんネイル関連も!」
谷本さんはメイクボックスから幾つか化粧品を取り出しながら、キラキラとした瞳でそれらを見せてくれた。
『メイク、スキなんですね。』
「うん♪ウチの病院、防災訓練にハンパなく力入れてるじゃん?」
『あっ、防災訓練・・・・凄いですよね・・・私、何が始まったかと思いましたもん。』
「その防災訓練で、あたし、メイク担当しているんだ。防災委員やってるから。」
ウチの病院の防災訓練
1年に2回行われる病院内の重要行事
台本というものが存在するぐらい本格的に行われているもので
病院所有の救急車まで稼動するぐらい熱が入っている訓練
よりリアルな雰囲気にするために被災した怪我人役の病院スタッフは衣服も破れていたり、燃えた跡があったりするものを着用する
さらに怪我人役の人はメイクも施されるのだけど、
血色不良に見せかけるために紫色系の口紅を塗るだけでなく、打撲痕やら深い切り傷、凄いものではヤケドの痕までメイクされる
それらの工夫を凝らした衣装やメイクによってその役になりきる人が殆ど
それもあってか防災訓練とわかっている病院職員役スタッフの対応もより真剣なものになる
『谷本さんもメイク班だったんですね~。』
「そうそう。最初はさ、防災委員とか面倒臭いな~って思っていたんだけど、メイク班の班長さんっていう人が緩和ケア病棟の看護師さんで。」
『緩和ケア病棟・・・』
緩和ケア病棟とは癌(がん)などの進行性の病気による身体と心の痛みのケアを中心に行う病棟
私も臨床心理士としてそこに入院している患者さんとカウンセリングを通じて向き合うこともある



