悪女のルール〜男を翻弄する悪女は貴公子の溺愛からは逃れられない〜

彼は白い馬を引いてやってきた。
スーツを着て馬を引く彼はおとぎ話の王子様そのものだった。

私は青紫色の浴衣を着て行った。
黒髪がよく映えるように。

映画の中の着物を着て馬に乗るシーンに憧れていたからだ。
彼は私の日本人らしい姿に心底感激して見惚れていた。

「とても綺麗だ……なんて美しいんだろう」

私はにっこりと微笑む。

彼は慣れた手つきで長い脚で馬に乗り、私が乗るのを手伝ってくれた。
私を横向きに乗せ、彼は後ろから私を抱きしめて手綱を握る。

「まるでおとぎ話の2人ね!」
とスタッフは私たちを見て手を合わせる。

「馬に乗ったのは初めて!私、憧れだったの」
「怖くありませんか?」
彼は腕で私を包み込み、優しく私を覗き込む。

私は彼を見上げて
「あなたがいるから平気よ」
と囁く。

彼はどきりとして私をまじまじ見る。
2人の距離が近い分、彼の胸の鼓動が私に伝わってくるようだった。

悪女のルールその2。
声は囁くように小さく。
彼との距離が縮まるように。
恋する男はどんな小さな音も聞き逃さないもの。

「じゃあ行きましょう」
彼は私のためにゆっくりと馬を走らせた。
馬からの眺めはとても高くて緊張したけれど、彼のがっしりした、まっすぐ伸びた体躯に支えられて恐怖はなかった。

木々の花々にさえ手が届きそう。
花々を見れるように、ゆったりと彼は馬を歩かせた。

彼はとても慣れているようで、私は安心して身を任せることができた。馬をコントロールする手つきは熟練者そのものだった。

「子供の頃から乗馬が趣味なんです」
上流階級らしい趣味だった。
それに彼は趣味をなんでも上手くこなしてしまう。

彼はそのまま海へと走らせた。
街ゆく人々が私たちを見る。
彼は私を独り占めするみたいに堂々と後ろから抱き締める。腕の力を強くする。

彼が私の浴衣に顔をうずめる。
彼の髪が私の頬をかすめる。
ハーブのような清潔な匂いと熱い汗の匂いがした。
私はそれを男らしいと思った。

「困ったな。あなたをみんなに見せたくない。でも、美しいあなたを見せびらかしたくもなる」