ジリジリと人を急かす様な蝉の声がこだまする。
町中にありながら、ひっそりと静まり返るそこは、墓地。死者が眠る場所。
冷たく四角い石がキレイに陳列している。

鮮やかな真夏に色を染める世界に、ここだけ切り取られたような独特の空間。
この周辺だけ薄い膜が覆っているよう。
外界の空気を隔てて、意地悪なくらい静謐。

そのくせ、Tシャツの隙間から覗くうなじを、じりじりと太陽が焼く。
汗がにじみ出て、Tシャツの襟元の色を変えていく。

墓石を前に、線香もろうそくも持ってこなかったから、せめてとばかりに念入りに掃除をした。
最後に、スーパーで買った仏花を申し訳程度に備えて、溜息を吐く。

……墓石に刻まれたのは、武藤の名。
側面に、父の名。

くまなく水を掛けたことで、濡れて濃く色づいた石に。
父さん、と語りかける。

父さんが去って、随分経ったね。
あれから、私にもいろいろあったよ…。