瑠璃色の鳥はそれから飛び立った。追うように慌ててベランダに出てみると、そこは春の夢のように美しい夢幻が広がっていた。   


空から降る桜雨をみんな食い入るように見、それぞれが自由に言葉を紡いでいる。手を伸ばし花弁に触れようとする者もいれば、画像として残そうとスマホをかざす者まで様々だ。



俺だけは遠くに想いを馳せて。



ああ、もう春なのか。



いつだったか里山で春の美しき夢に出会った。満開の薄紅色の花弁に出迎えられたそこは、まさに夢の国だった。花に包まれその光景にただふたり酔いしれる。日が暮れるまでしっかりと瞳に焼き写していた、ずっと憶えていられるように。



再び手にした春にあいつはもういない。その手の中に花弁を閉じこめ、歌詞を繋いでいく。――どんなに夜が永く先が見えなくとも夜は明け、陽は昇る。光は自らに宿りそしてまた照らしていく誰かを。



いつかまた会おう、あのさくらの中で。



心の中のさくらが枯れることはけっしてないから。