そして、表情を変えずにリビングを出ていってしまった。
「もう、あの子ったら。ただいまも言わないで」
毎日のように、このおばさんのせりふを聞いている気がする。
「じゃあ、鈴香ちゃん。翔哉の宿題の件頼んだわよ」
おばさんに頼まれたら、断るわけにはいかない。
急いで李便を出た翔哉くんを追いかけると、ちょうど手を洗い終わった彼が洗面所から出てくるところに出くわした。
「あ、翔哉くん」
声をかけると、視線で「なに?」と訴えてくる。
「あのね、宿題なんだけど」
「宿題?」
「うん、英語の予習が出てるでしょ?夕飯前にやってね」
「…………」
まさかの無言の返事が返ってくるとは思わなかった。


