夕飯を食べ終わってから、わたしにはミッションが残されていた。
そのミッションを果たすために、わたしは今彼の部屋の前に立っている。
コンコンとノックをして、少し遅めの彼の返事を確認してから、そっと扉を開いた。
「あの……」
静かに部屋をのぞくと、勉強机で翔哉くんが勉強をしている姿が目に入った。
「なに?」
短い返事が、いつものように冷たく聞こえない。
それがなぜかわからないまま、わたしは彼に近づいて行った。
「あのね、翔哉くん」
ふっと視線をそらした彼は、そのまま英語のテキストを眺めている。
「今日は、ありがとう」
すぐに言いたかったけれど、言えなかったありがとう。
やっと言えた。
「今日、助けてくれたでしょ?ありがとう」
人にありがとうを言うのは久しぶりで、少し気恥ずかしかった。
でも、翔哉くんは一向にこっちを向いてくれない。


