ぶつかった男子が、落ちた漫画を拾い上げると、ようやくのんちゃんは体が動いたようで。
奪うようにして、その漫画を胸元に引き寄せた。
「それ、佐藤が描いたの?」
「…………」
のんちゃんは何も答えない。
わたしはまずいと思って席を立つと、同時に灰谷くんも立ち上がった。
「ちょっと見せてよ」
「なになにー?佐藤さんがどうしたの?」
「なんか、漫画持ってた。手描きのやつ」
「もしかして、漫画描いてるの?」
男子の言葉をきっかけに、のんちゃんの周りにどんどん人が集まってくる。
のんちゃんは見られないように、必死に漫画を抱いていた。
中には「希美」と呼んで仲良くしていた人も。
クラスの圧倒的人気者だったのんちゃんの姿はどこにもなかった。


