後ろから「アキ!」と私を呼ぶ声が聞こえるけどそんなの構わない。
私じゃなくてあの娘にそういう心配してあげなよ。
これ以上は何も望まないから。
帰り慣れた道を私はただひたすら走る。
今日ばかりは一人の方がよっぽど気楽だよ。
道ゆくカップルたちが羨ましい。
もしかしたら今日私もあんな風になれてたのかな……と思うと胸が痛い。
冬馬と帰っていた時は気にならなかったけど、猛暑だ。
立ってるだけで頭がクラクラしそう。
早く帰って涼しい部屋で一人で篭りたい。
現実から逃げてしまいたい。
冬馬はどうせ今頃、私がいなくなったからあの娘と仲良く帰るんだろうね。
欲張りはいけないよ。
よそ見なんかしないでちゃんとあの娘を幸せにしてあげなよ。
ばいばい、冬馬。
少しの間だけだったけど……良い夢は見れたよ。
少なくとも毎日楽しかったし、幸せだった。
今までで初めての気持ちにだってなれたし、失う悲しさも知れたよ。
嫌でも冬馬の事がまだ頭にたくさん浮かぶ。
私は気づくとまた顔をクシャクシャにして地面を濡らしていた。