数日後。
彩響はまた例の調理専門学校にいた。以前も来たことがある場所だけど、今回の目的は別にある。彩響の手に持っていた入学申込書に気がついた職員は、すぐ担当の人を呼んでくれた。
案内された部屋のテーブルにつき、ソワソワする気持ちで担当者が書類を確認するのを待つ。年齢が高いとか、何か不備があるとか言われたらどうしよう…と悩んでいると、職員が一瞬何かを見たのか「うん?」と声を出した。
「あれ…」
「どうかされましたか?」
「あ、すみません、つい。あなたが峯野彩響さんですね?」
「え?私のこと、ご存知ですか?」
職員は意味深な笑みを浮かべ、彩響が提出した書類を受け取った。
「雛田林渡くんがあなたのことを話してましたので」
「り…雛田くんがですか?」
「『必ず書類出しにくるから、遅れても待ってください』と言われました。今日が最終日だったので少し心配していたのですが、間に合ってよかったです」
他の人から聞く林渡くんの名前に、懐かしさと嬉しさが交差する。彩響は相手が気付かないくらい、小さい声で呟いた。
「…信じてくれてたんだね」
簡単な面接を終え、彩響は家に戻ってきた。これで来年からまた学生に戻るーと思うと、いろんな意味で複雑になってくる。でも、自分の人生で「初めて」自分の意思で選んだ選択肢だと思うと、やはり嬉しい。そう考えながら、彩響は玄関扉を開け、軽い足取りでマンションの中へ入った。
沈んでいる空気の中、ゆっくり家を見回す。数年間お世話になったここも近いうちに処分するべきだろう。幸い中古マンションだからそこまで損はないはず。まず不動産会社に連絡して、その後は…
(いきなり辞表出したら佐藤くん、泣くんだろうな…)
それでも会社はもう辞める。その後、一人で暮らせる部屋を探して、引っ越しをして…。色々と考え込み彩響の顔が深刻になった頃、この静寂を破るように、いきなりチャイムが鳴った。
ーピンポン!
「は、はいっ!!」
誰も来る予定がないのに、一体誰だろう?インターフォンの画面を確認した彩響は、びっくりして急いで玄関の方へ向かった。扉を開けると、そこには予想外の人物が立っていた。
「彩響ちゃん、おはよう」
「林渡くん?!もう旅立ったんじゃなかったの?」
「あ…ごめん、いきなり来て。ちょっと、予定が変わって、明日出発なの。で、その前に挨拶でも…と思って。一旦中に入らせてくれない?」
この家を出たときとあまり変わっていない格好の林渡くんは、なんだか照れくさいような顔で言った。彩響は迷いなく、林渡くんを中へ招いた。ここに住んでいた時期もあったのに、今はもうすっかり「お客さん」のポジションになってしまったのが、なんだか笑える。
リビングに入った林渡くんが立ったままくるっと周りを確認した。
「思ったよりはキレイで安心したよ。ちゃんとしてる?」
「はあ…久しぶりに来たかと思ったら、小言から始まるの?やってるよ、ちゃんと」
「本当に?」
「本当本当」
まあ、きちんと食事をしてないのは確かだけど…ここは秘密にしておこう。疑わしい顔でじっと彩響の顔を見ていた林渡くんはすぐぷっ、と笑った。
「まあ、いいよ。信じてあげる。彩響ちゃん、昼ごはんはもう食べた?」
「え?いいえ、まだ…」
「じゃあ、久しぶりに作ってあげるよ。キッチン借りるね」
止める隙間もなく、林渡くんはさっさとキッチンに入り、冷蔵庫から諸々出して料理を始めた。彩響はテーブルにつき、その逞しい姿を眺めていた。
(なんだか、雰囲気変わったかも)
彩響はまた例の調理専門学校にいた。以前も来たことがある場所だけど、今回の目的は別にある。彩響の手に持っていた入学申込書に気がついた職員は、すぐ担当の人を呼んでくれた。
案内された部屋のテーブルにつき、ソワソワする気持ちで担当者が書類を確認するのを待つ。年齢が高いとか、何か不備があるとか言われたらどうしよう…と悩んでいると、職員が一瞬何かを見たのか「うん?」と声を出した。
「あれ…」
「どうかされましたか?」
「あ、すみません、つい。あなたが峯野彩響さんですね?」
「え?私のこと、ご存知ですか?」
職員は意味深な笑みを浮かべ、彩響が提出した書類を受け取った。
「雛田林渡くんがあなたのことを話してましたので」
「り…雛田くんがですか?」
「『必ず書類出しにくるから、遅れても待ってください』と言われました。今日が最終日だったので少し心配していたのですが、間に合ってよかったです」
他の人から聞く林渡くんの名前に、懐かしさと嬉しさが交差する。彩響は相手が気付かないくらい、小さい声で呟いた。
「…信じてくれてたんだね」
簡単な面接を終え、彩響は家に戻ってきた。これで来年からまた学生に戻るーと思うと、いろんな意味で複雑になってくる。でも、自分の人生で「初めて」自分の意思で選んだ選択肢だと思うと、やはり嬉しい。そう考えながら、彩響は玄関扉を開け、軽い足取りでマンションの中へ入った。
沈んでいる空気の中、ゆっくり家を見回す。数年間お世話になったここも近いうちに処分するべきだろう。幸い中古マンションだからそこまで損はないはず。まず不動産会社に連絡して、その後は…
(いきなり辞表出したら佐藤くん、泣くんだろうな…)
それでも会社はもう辞める。その後、一人で暮らせる部屋を探して、引っ越しをして…。色々と考え込み彩響の顔が深刻になった頃、この静寂を破るように、いきなりチャイムが鳴った。
ーピンポン!
「は、はいっ!!」
誰も来る予定がないのに、一体誰だろう?インターフォンの画面を確認した彩響は、びっくりして急いで玄関の方へ向かった。扉を開けると、そこには予想外の人物が立っていた。
「彩響ちゃん、おはよう」
「林渡くん?!もう旅立ったんじゃなかったの?」
「あ…ごめん、いきなり来て。ちょっと、予定が変わって、明日出発なの。で、その前に挨拶でも…と思って。一旦中に入らせてくれない?」
この家を出たときとあまり変わっていない格好の林渡くんは、なんだか照れくさいような顔で言った。彩響は迷いなく、林渡くんを中へ招いた。ここに住んでいた時期もあったのに、今はもうすっかり「お客さん」のポジションになってしまったのが、なんだか笑える。
リビングに入った林渡くんが立ったままくるっと周りを確認した。
「思ったよりはキレイで安心したよ。ちゃんとしてる?」
「はあ…久しぶりに来たかと思ったら、小言から始まるの?やってるよ、ちゃんと」
「本当に?」
「本当本当」
まあ、きちんと食事をしてないのは確かだけど…ここは秘密にしておこう。疑わしい顔でじっと彩響の顔を見ていた林渡くんはすぐぷっ、と笑った。
「まあ、いいよ。信じてあげる。彩響ちゃん、昼ごはんはもう食べた?」
「え?いいえ、まだ…」
「じゃあ、久しぶりに作ってあげるよ。キッチン借りるね」
止める隙間もなく、林渡くんはさっさとキッチンに入り、冷蔵庫から諸々出して料理を始めた。彩響はテーブルにつき、その逞しい姿を眺めていた。
(なんだか、雰囲気変わったかも)



