いつの間にか、林渡くんが彩響の腕を引っ張り、三和さんに言う。三和さんは少し焦った顔で答えた。
「いや、俺は襟を直しただけで…」
「そういうの、俺にもできる。彩響ちゃんの家政夫は俺だから、手出さないで」
「…?」
三和さんはますます疑問形の顔になる。それを見る彩響もどんどん気まずくなり、二人の間でどんな行動をすればいいのかしばらく迷った。そんな彼女を救ってくれたのは他の家政夫たちだった。
「はいはい、そこまで。林渡、熱くなりすぎです」
「清嵐の言う通りだぜ。寛一が困っているからやめなよ。寛一のやつ、お前がなに言ってるかも気づいてないから」
「気づいてない?それはどういう…」
「とりあえず、峯野さんは罪がないので放してあげましょう」
河原塚さんと今瀬さんがそれぞれ林渡くんと三和さんの腕を引っ張り、彩響はやっと開放された。それでもまだ三和さんを不満そうに睨む林渡くんと、それを困った顔で見返す三和さんの組み合わせが面白くて、彩響は思わずぷっと笑ってしまった。
「なんだよ、こっちは深刻だっていうのに…」
「まあまあ。じゃ、俺たち本当に帰るから」
「また会いましょう」
まだスッキリしていない顔の三和さんを連れ、家政夫たちは病室を出ていった。彩響も林渡くんに向かって声をかけた。
「退院手続きは終わったの?」
「うん、兄貴から連絡来た」
「じゃあ、私達も帰りましょう」
彩響の言葉に、林渡くんが鞄を手に取って隣に立った。普段と変わらない様子だけど、なんだかその姿がとても逞しく感じられた。見とれていると、林渡くんが笑った。
「どうしたの?行かないの?」
「あ、行くよ。それに、言ったら改めて話もある」
「話?」
「うん」
「じゃあ、早く帰ろう。なんでも聞いてあげるから」
林渡くんは軽く頷いて、病室を出ていった。彩響もその後を追いかけた。
「ー話ってなに?」
マンションに帰ってきて、食卓に座った林渡くんが早速質問する。彩響は冷蔵庫からお茶のペットボトルを2本出し、林渡くんの向かい側に座った。それでもすぐ話を切り出すことができず、しばらくうじうじしていたがーやがて心を整え、口を開いた。
「私、あなたが通う料理専門学校に入学したい」
その言葉に、林渡くんの目が大きくなる。でもすぐ元の顔に戻り、大したことでもないような口調で答えた。
「そうか。じゃあ早く申し込まないとね」
「え、それだけ?」
「それだけって、他になにか言うべき?」
「いや、まあ…」
自分なりには結構深刻に言ったつもりなのに、反応があっさりしすぎていてちょっとがっかりする。それに気づいた林渡くんはくすくす笑い、首を横に振った。
「そんな、がっかりしないで。彩響ちゃんがすごい悩んでその答えにたどり着いたのは知っているから。ーで、良かったら教えて。どうして料理を学びたいと思ったの?」
彩響は目を閉じ、軽く深呼吸をした。そう、この答えを出すまで、結構長い時間悩んだ。「今更なに考えているの」とか、「料理は趣味で楽しむだけで十分」とか、色んな考えが邪魔をしたけれどーだからこそ、慎重にこの答えを見つけた。
「病院で、林渡くんと話して改めて思ったよ。今からでもいい、もうこれからの自分の人生は、母ではなく、自分が望むことをしながら生きてみたいと」
「自分が望むことが、料理を学ぶことなの?」
「考えてみたけど…料理をしているとき、とても楽しかった。幸せだと思った。だから、もう少し本格的に学びたいと思ったけど…どう思う?」
「どうって、良いに決まってるじゃん。俺は賛成するよ?」
「でも、正直不安な部分もあって…」
「いや、俺は襟を直しただけで…」
「そういうの、俺にもできる。彩響ちゃんの家政夫は俺だから、手出さないで」
「…?」
三和さんはますます疑問形の顔になる。それを見る彩響もどんどん気まずくなり、二人の間でどんな行動をすればいいのかしばらく迷った。そんな彼女を救ってくれたのは他の家政夫たちだった。
「はいはい、そこまで。林渡、熱くなりすぎです」
「清嵐の言う通りだぜ。寛一が困っているからやめなよ。寛一のやつ、お前がなに言ってるかも気づいてないから」
「気づいてない?それはどういう…」
「とりあえず、峯野さんは罪がないので放してあげましょう」
河原塚さんと今瀬さんがそれぞれ林渡くんと三和さんの腕を引っ張り、彩響はやっと開放された。それでもまだ三和さんを不満そうに睨む林渡くんと、それを困った顔で見返す三和さんの組み合わせが面白くて、彩響は思わずぷっと笑ってしまった。
「なんだよ、こっちは深刻だっていうのに…」
「まあまあ。じゃ、俺たち本当に帰るから」
「また会いましょう」
まだスッキリしていない顔の三和さんを連れ、家政夫たちは病室を出ていった。彩響も林渡くんに向かって声をかけた。
「退院手続きは終わったの?」
「うん、兄貴から連絡来た」
「じゃあ、私達も帰りましょう」
彩響の言葉に、林渡くんが鞄を手に取って隣に立った。普段と変わらない様子だけど、なんだかその姿がとても逞しく感じられた。見とれていると、林渡くんが笑った。
「どうしたの?行かないの?」
「あ、行くよ。それに、言ったら改めて話もある」
「話?」
「うん」
「じゃあ、早く帰ろう。なんでも聞いてあげるから」
林渡くんは軽く頷いて、病室を出ていった。彩響もその後を追いかけた。
「ー話ってなに?」
マンションに帰ってきて、食卓に座った林渡くんが早速質問する。彩響は冷蔵庫からお茶のペットボトルを2本出し、林渡くんの向かい側に座った。それでもすぐ話を切り出すことができず、しばらくうじうじしていたがーやがて心を整え、口を開いた。
「私、あなたが通う料理専門学校に入学したい」
その言葉に、林渡くんの目が大きくなる。でもすぐ元の顔に戻り、大したことでもないような口調で答えた。
「そうか。じゃあ早く申し込まないとね」
「え、それだけ?」
「それだけって、他になにか言うべき?」
「いや、まあ…」
自分なりには結構深刻に言ったつもりなのに、反応があっさりしすぎていてちょっとがっかりする。それに気づいた林渡くんはくすくす笑い、首を横に振った。
「そんな、がっかりしないで。彩響ちゃんがすごい悩んでその答えにたどり着いたのは知っているから。ーで、良かったら教えて。どうして料理を学びたいと思ったの?」
彩響は目を閉じ、軽く深呼吸をした。そう、この答えを出すまで、結構長い時間悩んだ。「今更なに考えているの」とか、「料理は趣味で楽しむだけで十分」とか、色んな考えが邪魔をしたけれどーだからこそ、慎重にこの答えを見つけた。
「病院で、林渡くんと話して改めて思ったよ。今からでもいい、もうこれからの自分の人生は、母ではなく、自分が望むことをしながら生きてみたいと」
「自分が望むことが、料理を学ぶことなの?」
「考えてみたけど…料理をしているとき、とても楽しかった。幸せだと思った。だから、もう少し本格的に学びたいと思ったけど…どう思う?」
「どうって、良いに決まってるじゃん。俺は賛成するよ?」
「でも、正直不安な部分もあって…」