その言葉に彩響は思わず笑ってしまった。もうちょっと変わった料理の名前が出てくると思ったのに、意外と素朴な名前が出てきて驚いた。声に出して笑うと、二人の間に流れる空気がすこし柔らかくなった気がした。


「俺、本気でこの仕事きちんとやりたいと思ってる。必ず彩響ちゃんの役に立つ家政夫になるよ。だから、彩響ちゃんももう少し協力的になって?俺、頑張るから。」


そう言う林渡くんの声はとても誠実で、今までのやさぐれた感じはどこにもなかった。ずっと生意気なガキだと決めつけていた自分のことが少し恥ずかしくなり、彩響は誤魔化すように笑った。


「そうね、そうします。」

「じゃあ、明日もお弁当持って行ってくれるよね?」

「なら遠慮なく。これもご馳走様。私はそろそろ寝るよ。」


そのまま席から立ち上がり、部屋へ向かう。すると林渡くんが後ろから彩響を呼び止めた。


「彩響ちゃん。」

「はい?」

「ありがとう。そしてこれからもよろしくね。」


林渡くんの言葉に、彩響はにっこり笑った。


「…私もよろしく。お休み。」

歯磨きをして部屋の中ヘ入ると、朝散らかっていた部屋がきれいに片付いているのに気づく。きっと家政夫くんが掃除したんだろう。

彩響はベッドの上に倒れるように横になり、ぼーっと天井を見つめた。会社から帰って来ると、いつも今日の後悔と明日への不安で頭がいっぱいだったけど、今日はなんだか心が穏やかだ。これは言われたとおり、「お腹が満たされているから」だろうか。


(最初は色々ムカつくこともあったけど、まあ雇って良かったかも知れない。)


もちろん、もう少し見守るつもりだけど。

とりあえずは寝よう。彩響はそう思って眠りを誘った。