「社長、おはようございます!」

啓太は軽く手を上げた。

営業畑で10年を過ごした後、28歳で独立した。

高校を卒業後、誰が見ても詐欺まがいな布団を売る会社に就職した。

右も左も分からない中、啓太は持ち前の雰囲気を活かし、どんどん成果を出した。

上下セットの羽毛布団で45万円。

それが高いのか安いのか、当時は分からなかった。

一人暮らしのアパートを狙った訪問販売だ。

いわゆる押し売りだった。

しかし、啓太は一度として押し売りをしたことはなかった。

キチンと商品の良さを説明し、人間を信用してもらい、成約を勝ちとってきた。

中には身体を使って成約を取る女性社員もいた。

啓太も年配の女性から強要された事もあった。

それは仕方がなかった。

一人暮らしの部屋に上がり込み、布団を広げ、寝心地などを説明する流れで、そういう雰囲気になる事は自然だった。

しかし、少なからずプライドを持っていた啓太は、そんな売女のような真似は出来なかった。

それで成績を上げたいとは思わなかったからだ。

それでも現実はそうは行かなかった。

若い女性社員やイケメン社員は、会社からのプレッシャーに耐えきれず、何でもありで成約を取り続けた。

啓太は綺麗事を貫くために死ぬほど働いた。