その日、啓太は夢を見た。

ハッキリとは覚えていない。

一つ言えることは、どんよりした嫌な夢だ。

大切な物に手を伸ばすが届かない。そんな夢だった。

ハッと目が覚めると3歳の息子が啓太の上でゴロゴロしていた。

まるで大木にしがみつく猿のようだった。

「陸斗、おはよう。」

「パパ、起きたー!」

陸斗は嬉しそうに微笑んだ。

そのままパタパタと走り出し、母親の元へと行った。

おそらく「パパを起こしてきて!」と頼まれたのだろう。

言われてみれば、上でゴロゴロしていたのではなく、起こそうと奮闘していたのかもしれない。

啓太は重い頭と体をフラつかせリビングへと向かった。

妻は「おはよう!」と言って一杯の水を持ってきてくれた。

啓太は何も言わず水を飲み干す。

「ありがとう」この一言が言えなくなって何年が経つだろう。

家族であるべき理由を探し出したのはいつからだろう。

外で他の女を抱いて、平気で家族の元に帰るようになったのはいつからだろう。

啓太は朝食を済ませ部屋へと戻った。

数分後、玄関から「行ってきまーす!」と子供の元気な声が聞こえた。

「いってらっしゃい!」

子供と妻へ声だけで返した。

いってらっしゃいのキスはもう出来ない。

それは家族への冒涜だと思った。