虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜


 その夜、私たちは天王洲の先の、品川埠頭の一角にある空き倉庫の片隅で、約束の時間が来るのを待っていた。
 
 空き倉庫はシャッターを閉じて、中は非常灯の明かりだけになっている。
 壁や屋根の採光窓から、夜の東京港の輝きの余韻が、淡い光を投げ掛けていた。

「そろそろだな」

 腕時計に目をやって、高見澤さんが言った。

 それと同時に、微かにヒンジのきしむ音がして、シャッター横のドアが開いた。

 暗がりから靴音を響かせながら、大柄な影が近付いてくる。

 非常灯のぼんやりとした明かりが、その人物を浮かび上がらせた。
 
 清潔そうに整えた髪に、柔和そうな細い目。あごひげを僅かに残した、スタイリッシュなフェイス。
 この優しげな外観に、皆が騙されてきた。

 濃いグレイのスーツに身を包んだ、田村部長が姿を現した。

 私は呼吸を整えると、口を開いた。

「お久しぶりです、田村部長」

「早川くん。わざわざこんなところに呼び出して、話というのはなんだね?」

 田村部長は、完璧に部下思いの上司を演じ続けている。

「君が篠原くんの居場所を知っていると言うから、こうやって出向いて来たんだが……」

 そして周囲を見廻して、

「おお……篠原くん、そこに居たのか」

 私の陰に隠れるようにしている、篠原さんに気が付いた。
 
 びくっと身を縮める篠原さんに、

「心配していたんだよ、篠原くん。済まないね、きみに誤解をさせてしまったようだ」

 そう言って田村部長が歩み寄ろうとしたとき、

「誤解? 夜の11時に20も歳下のOLをホテルに呼び出して、誤解も何もないだろう」

 高見澤さんが田村部長を遮るように、私たちの前に立った。