「本当に、パイロットになったんだね」

 精一杯微笑んだつもりなのに、唇が震えて、目頭が熱くなって、涙がぽろぽろこぼれて止められない。 
 
「おい、泣くなよ。俺が泣かせたみたいじゃないか」  

 苦笑する彼の声すら、心地いい。
 
 ずっと離れていたのに、私を忘れずにいてくれた。
 遠い日の夢を諦めずに、見違えるほど素敵になって、また私の前に現れてくれた。

 これは夢、かな?
 夢でもいい。
 せめて目が覚めるまで、この優しい瞳に見つめられていたい──。

 行き交う旅行者がちらちらこちらを見て、角に立つ警備員も胡散(うさん)臭そうにこちらを眺めているけど、そんなこと気にしない。

 私は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼の澄んだ瞳を見上げていた。   

 と、そんなときにメールの着信音。

 ごめんね、と囁いてスマホを開くと、真理からのメールだった。

『お待たせ、着いたよ。今どこ?』

 時間にルーズなうえに、タイミングまで最悪だなんて……。

「ごめん、待ち合わせだったのか」

 九条くんが、少しばつが悪そうに言う。

「違うの、そうじゃないの」

 私は慌てて涙を拭って、事情を説明した。

「なんだ、真理ちゃんも来てるのか」 

 九条くんは懐かしそうに笑うと、こう切り出した。

「じゃあ真理ちゃんと二人で、これから俺の家に来ないか? ご馳走するよ」