血が凍り付く思いの私に、紫月さんは言葉を重ねた。

「あなた、正臣がどんな人なのかご存知ないのでしょう?」

「どんな、人……?」

「正臣の個人資産は、非公表のものも含めれば9,000億円。日本でも有数の資産家ですのよ」

 9,000億──!!
 
 日本のサラリーマンの生涯収入が3億円って聞いたことがあるけど、その3,000倍……。

「お分かりかしら。正臣はなんの酔狂かパイロットなんかしているけど、その気になれば自分の会社を買い取ることも、自分で新しい航空会社を立ち上げることもできるのよ」

「……」

「正臣は、普通の方がお付き合いできるような男性ではないんです。そんな彼を支えるには、女性の側にもそれに見合った地位や財力が要る。そうは思われませんか? 早川さん」

 でもその時、リビングのドアから、聞き馴染んだ声がした。

「私にはそれにふさわしい力があるから──か? 紫月」

 振り向くと、トレーニングウェア姿の九条くんが、厳しい顔をして立っていた。

「紫月、それ以上理恵を煽るな。彼女にはなにも話して無かったんだ」

 九条くんは私を守るように、私の横に座った。