面倒な入国審査を終えて、到着ターミナルのゲートをくぐった頃には、着陸からたっぷり一時間が過ぎていた。

 必要な事なんだろうけど、苛つく。そして疲れた。
 なにしろこちらは、成田からここまで、窮屈なエコノミー席に13時間も押し込まれて来たのだから。

 こわばった脚の筋を伸ばすように、ゆっくりとバゲッジ・クレインのエリアに向かった。

 ごとごと動くベルトコンベアーから、青いキャリーバッグが吐き出されるのを待つ間、スマホの電源を入れて、妹の真理にメールを打った。

『到着したよ。今どこ?』

 真理からのメールは、すぐに返ってきた。

『ごめん。今向かってるから、もう少し待ってて』

 快活で愛嬌たっぷりの妹だけど、時間にルーズなところは直っていない。
 いや、長いアメリカ暮らしで、かえってひどくなっているかも。
 でもこのニューヨークで、他に頼れる人を知らない。妹のアパートに身を寄せるつもりで、宿の手配もしていない。

 仕方ない。

 あれこれ考えるのを止めて、受け取ったトラベルバッグを曳きながら、到着ロビーに向かった。

 どこかで、暖かいコーヒーでも飲もう。