京浜運河に面したアメリカンダイナーのオープンテラスで、私たちは食べて飲んで、笑って話した。
それでも、楽しい時間には終わりが来る。
時計が10時半を回る頃、店員がおずおずとラストオーダーを聞きに来た。
「あら、もうそんな時間?」
紫月さんは時計に目をやって、軽く溜息をつくと、
「みんなどうする? なんなら場所を変えて──」
と言いかけたところに、
「済まん、紫月」
直人さんが急に口を挟んだ。
「俺はここで失礼するよ。それと──」
直人さんは、傍らの明日美ちゃんに手を伸ばして、
「明日美、少し二人で歩かないか? 話しておきたいことがある」
みんな目を丸くしたけど、一番驚いたのは明日美ちゃん本人かもしれない。オープンテラスのソファに腰掛けたまま固まって、目をぱちぱちさせている。
「明日美。俺と行くのは、嫌か?」
「ち、違います!」
明日美ちゃんは、子ウサギが跳ねるように立ち上がり、直人さんの差し伸べた腕に、飛びついた。
「あ、あの、直人さん。大好きです、私を……連れて行ってください!」
「明日美……」
直人さんは優しく、だけどちょっぴり呆れたように、
「嬉しいけど、俺まだ何も言っていないぞ」
「あ……」
茹で上がったように真っ赤になる明日美ちゃんだったけど、直人さんは優しかった。
「でも、丁度いい。俺も明日美のことが好きなんだ。そのへん散歩しながら、これからのこと話そうぜ」
ずっと憧れていた相手に、超直球に告白された明日美ちゃんは、羽根があれば夜空に舞い上がってしまいそうな勢いだった。
「ちょっと直人!」
そんな二人に、紫月さんが口を挟んだ。
「私の可愛い妹におかしなことしたら、承知しないからね」
明日美ちゃんはいつの間にか、紫月さんの妹になっていたらしい。
でも、そのとおりかも。いつも素直で真面目な明日美ちゃんは、私たちみんなの可愛い妹だから。
「面倒くせえな、分かってるよ」
直人さんはこう言い返した。
「明日美は俺が幸せにするから、黙って見てろ」
明日美ちゃんは嬉しさで泣き出しそうな顔をしながら、直人さんの腕にしがみついている。
「明日美、襲われそうになったら大声出すのよ」
「うるせー」
直人さんは背中越しに左手をひらひらさせながら、右手で小柄な明日美ちゃんの肩を抱いて、運河沿いの遊歩道へ歩いて行った。



