「九条君、聞こえるか?」
マイクを片手に、風間さんが声をあげた。
「運航管理センターの風間だ。まだ飛行を維持できるか?」
しばらくして、ごうごうと鳴る風音に混じって、九条くんの苦しそうな声がスピーカーから流れてきた。
『努力……しています……』
「今、自衛隊と海上保安庁、消防庁に救難要請を出した。他になにか希望があれば、何でも言ってくれ」
しばらく九条くんは黙っていた。
ごうごうと響く風音と、九条くんの苦しそうな息遣いだけが、スピーカーから漏れてくる。
そして九条くんは、言った。
『海上保安庁に……連絡して……、近くに、航行中の船舶が、いないか……』
「不時着水するのか、九条君?」
『……やむを得、ません……』
だがその言葉を聞いて、急に紫月さんが口を開いた。
「ちょっと待って、あなたはどうなるの、正臣?!」
『紫月……』
コクピットの裂け目から、ごうごう吹き込む風音が響いている。
「コクピットと客室を隔てるドアが故障して開かないって聞いたわ。あなたはどうなるの?!」
全員が息を呑む中、少し間をおいて、九条くんの声が、途切れ途切れに響いた。
『……コクピットの、屋根に……非常用、の……脱出、ハッチが……』
「九条、今の君にそのハッチが使えるのか?」
言葉を挟んだのは、藤堂社長だった。
『社長……』
「ああ、藤堂だ。君の仲間たちも来ているぞ、九条」
藤堂社長は、こう言った。
「左腕を負傷しているのだろう? 今の君が片腕で脱出ロープを掴んで、機外に出られるのか?」
九条くんは、しばらく黙っていた。
そして吹きすさぶ風の中で、かすれた声を出した。
『……難しい、でしょう……。でも、最悪……、僕と原田さんの、二人の犠牲で、乗客が、助かるのなら……』
「だめ! 絶対にだめ!!」
紫月さんが叫んだ。
「こんなところで死ぬなんて、絶対に許さない! 許さないから!!」
『……』
「必ず帰って来るの! その機体を操って、必ず帰って来るのよ!!」
紫月さんの目に、涙が光っていた。
「それ以外に、認めないから……」
私は紫月さんの後ろに歩み寄って、そっと肩に手を触れた。
紫月さんは──この、日本で一番の財閥令嬢は、何も言わずに、私に抱きついてきた。



