実は、私たちはこのままアメリカの法律で結婚することもできる。
 その婚姻証明書をもとに、日本で戸籍を作ることもできるのだけど、九条くんは日本式の婚姻手続きと戸籍作成を希望した。

 私を気遣ってくれたのか、九条くんにこだわりがあったのか。ただ、九条くんが真剣に考えていてくれることが嬉しくて、私は彼の希望に従うことにした。

 まず先に私が帰国して、実家で九条くんの帰りを待つ。
 九条くんはいくつかのフライトを組み合わせて、最後にはロサンゼルスから羽田に戻ってくる。
 日本で九条くんと合流して、私の実家のある街で、二人で婚姻届を提出して、新たに戸籍を作る。
 
 そして私の実家で、ささやかなお祝い。

 そんな予定を立てて国際電話でその話をしたら、お父さんもお母さんも、ものすごく喜んでくれた。

 不安なんてないよね。
 二人が一歩一歩、幸せになっていくだけだよね。
 そうだよね、九条くん──。

 私はふと思いついて、その予定を紫月さんや明日美ちゃんにも報せた。
 二人とも結婚式にはご招待したかったし、できればあのお食事会みたいな楽しいトークを、また三人で楽しみたかった。

『理恵、おめでとう!』

 スマホ越しに紫月さんは、耳に響くくらいの大きな声で祝福してくれた。

『え、お食事会? ──なに言ってるのよ、もちろん行くわよ。──え、仕事? 大丈夫。一日やニ日私がいなくても、榊が一人でやってくれるから』

 榊さん、ごめんなさい……。

 紫月さんに報せた後、明日美ちゃんにも連絡を入れた。

『先輩っ、おめでとうございます!』

 紫月さんに負けず劣らず、明日美ちゃんも元気いっぱいの声で祝福してくれた。

『──お食事会? もちろん行きますよ。ああ、そうだ。その頃に直人さんも帰国されるそうだから、直人さんもお誘いしませんか? またみんなでお話したいです』
 
 嬉しかったけど、直人さんの名前を出されて、一瞬どきりとした。
 忙しい直人さんが、何の用もなくニューヨークから日本までやってくるはずがないから。

 直人さんは、何の目的で──?