シミュレーターが作動し始めると、目の前のメーターパネルが活発に動き始めた。
コクピットのウィンドウに映る景色も変わった。
これは……私にもわかる、羽田の滑走路だ。今と同じ、昼間の景色になっている。
「理恵、インターカムを付けて。管制官との交信は俺がやる」
スピーカーから管制官の指示が、英語で矢継ぎ早に入ってくる。
九条くんはそれに手短かに答えながら、内容を私に説明してくれる。
「この機体は今、羽田空港の国際線ターミナルを離れてC滑走路に向かっている。南風が8ノットで吹いている設定だから、離陸には16Lを使う」
「ワン・シックス・レフト?」
私は聞き返した。
「滑走路の呼び方だよ。北を起点に滑走路の向きを10度刻みで表すんだ。東が09 、南が18、西が27、一周回って北は36 。羽田でいうと、C滑走路を北から南に向かう場合は16L、南から北に向かう場合には34Rになる。末尾のレフト、ライトは、平行滑走路がある場合に、その左右のどちらかを表すんだ。羽田はA滑走路とC滑走路が並走しているからね」
なんて言われても、なんのことだかさっぱり分からない。
「本当は機長と副操縦士で分担してチェックリストの読み上げをやるんだけど、今回はそれも全部俺がやるから。理恵は、見ていて」
九条くんはそう言うと、チェックリストを暗唱しながら、スイッチやメーター類を素早くチェックし始めた。
その一方で九条くんは、管制官の指示に応答しながら、誘導路を進む機体を巧みに誘導線に沿って進ませている。
なんてこと、すご過ぎる。
プロのパイロットが二人がかりで行う作業を難なく一人でこなして、おまけに素人の私に丁寧に説明もしてくれる。
すご過ぎる。私の、まあくん……。



