「シャキールは依然栄えてはいますが、石油はご存知の通り、エネルギー資源として問題を抱えています」
枯渇の問題もあるし、二酸化炭素排出の問題もある。世界的に環境に対する意識が高まるなか、石油に頼り過ぎるシャキールの体質は、瑠美おばさんの目には危うく映っていたのだそうだ。
「私はアジアの金融と情報のセンターであるシンガポールに移動して、未来のシャキールの核となるような、新事業を立ち上げたかったのです」
私には、ため息を付くことしかできない。
分裂の危機に瀕したシャキールを救った交渉力。
自分がドバイに留まり続けることが、新たな火種となることを見抜いた判断力。
隆盛を極めるシャキールに翳りを見て、未来への布石となろうとした先見性と、行動力。
まさしく、ジャミーラ・スルターナ。
『美しき女君主』だった。
「私は未来のシャキールのために、シンガポールで新事業を立ち上げました。クリーン・エネルギーと、情報通信事業です。そしてそれは、予想を遥かに上回る結果をもたらしました」
瑠美おばさんは、微笑んだ。
「時流にも恵まれたのでしょう。どちらも予想を超える勢いで成長して、今では新事業での売上げが、石油部門の売上げを凌駕する勢いです」
息を呑む思いの私に、九条くんが口を開いた。
「理恵。情報通信大手のシンドバッドと、バイオマスエネルギーのブルー・ウェーブって、聞いたことあるだろう?」
どちらも彗星のように現れた、アジアの超優良企業だ。
「両方とも、母さんが作った会社なんだ」
九条くんは、嬉しそうに笑って言った。



