「……」

自分はいつも座ってる、男性の近くの席に向かう。男性は、何かを小さな声で口ずさんでいた。

その声は、自分が最近良く聞くようになった人の声にそっくりで……。

「ん?……君、どうしたの?」

男性と目が合って、自分に向かって微笑む。高くもなく低くもない声が、自分の耳に届いた。

「あ、いえ……自分……いや、私が良く聞く人の歌声に似てるな……って……」

「……そうなんですね。もしかしたら、どこかで僕の歌を聴いてくれてるのかも」

「僕の歌……?」

自分が首を傾げると、男性は「うん。僕、ムジカって名前で音楽を作ってるんです」と笑みを崩さずに言う。

「……ムジカ……ムジカって、アルテって言う絵描きと一緒に動画作ってません?」

自分の言葉に、ムジカは驚いた顔をすると「そうだよ」とすぐに笑顔になった。

「……ムジカって、あなただったんですね……私、アルテという名前で活動しています!」

「そうなんですか!?僕、この辺に住んでて……あ、ある程度進んだから片付けるね。それから、いっぱいお話しようよ」

そう言って、ムジカはパソコンやら資料やらを片付け始める。

「……良いですよ」

「メッセージで呼びタメで話してるから、敬語使わなくても良いよ」