今日もいつも変わらない同じ日が来た。


学校が始まり、授業を受けて、放課後になれば早く帰る。


私が気をつけることは早く帰ること。


ただ、それだけをすればいい。


そうすれば苦しむことも傷つくこともない。


誰とも関わらずに、ずっと一人きりで。




.......


1日の授業が終わって放課後、帰る準備をしていた私は、担任の先生に呼ばれて職員室に向かった。


話の内容は、以前に旭町で起きた通り魔事件のことだった。
担任の先生は、私が最近不審者に付き纏われていないか心配をしてくれた。そして、旭町で起きた通り魔事件の犯人がまだ捕まっていないことを教えてくれた。


「前に、西野、不審者と出会したことがあったけど、最近は大丈夫か?何か、不審なことでも起きてない?」

先生の言葉に喉を詰まらせた。
浮かんだのは神谷の顔だった。


「いえ、特にはありません」

私が今言えることはそれだけしかなかった。
結局、最近私の周りにいた不審者は神谷だった。

「先生、聞きたいことがあるんですけど」

顔を傾げる先生に対して、不安な顔を見せる。


「旭町で起きた通魔事件の犯人の特徴をもう一度、確認したいんですけど…50代くらいの男の人で、体格も大柄って言ってましたよね?」

「ああ、そうだけど。それがどうした?西野が出会した不審者もそんな特徴だったか?」

「…いえ、あまり顔も見えなかったし、もう覚えてないです」


私は曖昧な返事をした。

神谷は細身で、見た目も若い。私が出会したのはその通魔事件の犯人ではなくて、この学校の生徒の神谷だったということは、先生には言えなかった。


「とにかく、まだ犯人は捕まってないから、油断せずに帰り道には気をつけなさい。なるべく人気のある場所を選んで歩いて。そしてまた何か不審なことがあれば先生にすぐ伝えてくれ」


まだ犯人は捕まっていない。だから、どちらにしても気をつけないといけない。旭町にまだ犯人は潜んでいるかもしれない。

神谷のことでさえ頭を抱えているのに、解決していない事件のことも加わり、更に私を悩ませた。

私と神谷のことを先生に話しても伝わらない。これは私たちだけの問題だ。先生にはそれ以上の話は相談しなかった。



※ ※ ※


先生と話し終わり、職員室から出て携帯を確認した。携帯画面に映っていた時計の時間は16時15分を示していた。

少し遅くなってしまった。
急がなければいけない。

それよりも…着信も何もないことに、少し気を落とす。
誰かからの連絡を待っているのか、自分の中に芽生えた期待に、心底呆れる。

私が先輩に言ったのに。
もう一緒に帰らないって。
私から一方的に断ったのに。何で私が落ち込んでいるのだろう。


先輩が事件に関わっているかもしれない疑惑が生まれた時から、私の中で先輩に対する想いが複雑に絡まっていた。

今、先輩に会ってもどんな顔をしたらいいのか分からない。

あの事件に本当に関わっているのか。
あの事件の日、何があったのか。
なぜ、私に近づいたのか。

聞きたいことがありすぎて、だけど直接、先輩に話を聞くのは不安だった。

本当のことを聞くことで、もし先輩と私の関係が変わってしまうとしたら、そう思うと怖い。

だけど、本当のことは知りたいという葛藤。


自分の中で整理がつかない状態で、先輩には会えなかった。時間が欲しかった。

私は携帯を鞄にしまうと、玄関の方へと走り出した。

部活動も始まっていて、教室にいる生徒も少ない時間帯になっていた。

誰もいない廊下を通り過ぎて玄関へと繋がる階段を降りる。

自分のクラスの靴箱に向かうと、そこに人影が見えた。

誰かがいる、と感じた次に、その顔を見て寒気を感じた。

その顔は覚えのある顔だった。

その顔を見て、何度も携帯に送られたメッセージの返事をしてないことを思い出した。


神谷だ。

神谷はこっちを見ている。ちょうど、私の靴が入っている前で立っている。
私を待ち構えていたのか。

じっとこっちを見ている。


「返事がないから、わざわざ会いにきた」


神谷は私にそう言った。私は神谷の前まで立ち、その場から逃げる事は出来なかった。


「本当は君、事件のことをすべて知ってるんじゃないか?」


神谷の目は鋭かった。

何も言えない私を見て、神谷は続けて言う。