【コミカライズ】婚約破棄、したいです!〜大好きな王子様の幸せのために、見事フラれてみせましょう〜

「セラフィナ……セラフィナ。こっちを向け」

 ジェラルドの裏切りを知り呆然としていたセラフィナは、階段を降りて近づいて来ていたラドクリフを振り返った。

 まるで光を背負っているように思えるほどの、神々しさがそこにはあった。彼のことが好きだからと、一番にその権利を持つ婚約者であるのにセラフィナは、なるべく彼には近づかないようにしていた。彼と結ばれるはずのヒロイン役のメイベル嬢を苦手なりにも、何度も虐めたりしていた。

 すべては、ここで悪役令嬢として断罪されるためだった。

 ぽろぽろと頬を流れ出した涙を見て、ラドクリフは一瞬眉を寄せたが、黙って胸のポケットから出したハンカチで拭いてくれた。

「……俺のことが、ずっと好きだったんだろう。ジェラルドから聞いた話では、この卒業パーティーで俺に婚約破棄をされなければと思ったのかもしれないが。身体を震わせながら涙目でメイベル嬢を悪く言っても、彼女はセラフィナの事を大丈夫かと、心配しているだけだった。幼い頃から事あるごとに避けられていたから、俺はずっとセラフィナに嫌われていたんだと思っていた。だが、いつも物陰に隠れて熱っぽく見つめてくるし、流石にこれはおかしいとは思い出した。お前の側仕えのジェラルドから無理に聞き出したのは、俺だ……俺は初対面からセラフィナの事が可愛いと思っていたし、避けられて傷ついていた。だから、その責任は取って貰いたい」

「……ふぇ?」

 泣きながら彼の言葉を聞き間抜けな声を出してしまったセラフィナの両肩に手を載せて、ラドクリフは良い笑顔で微笑んだ。

「……わからないか? セラフィナは俺が好きなんだろう? そして、俺もお前が好きだ。両思い同士と言うことだ。最初は訳の分からない態度に戸惑ったものだが、好きな相手を幸せにするためにと頑張った理由を知れば、いじらしくとても可愛いと思った。そして、俺とセラフィナは、学園を本日卒業する」

 この無闇に広い大ホールで行われているのは、卒業生を送る卒業パーティーに他ならない。だから、二人は卒業するのは、セラフィナにもよく分かっていた。

「えっと……ラドクリフ様?」

 戸惑いながら彼を見上げたセラフィナに、畳み掛けるようにラドクリフは言った。

「そう。俺たちは、これで晴れて成人だ。王である父上と王太子の兄上からも、サフィナー公爵令嬢なら問題なく結婚式が早まっても別に構わないとは言われた。もし、俺の大きな勘違いであれば、きちんと正して欲しいんだが、婚約者とは、将来結婚を約束している二人の事だ。俺とお前は、八歳の頃からそういう約束をしている」

「まっ……待ってください! でも! ラドクリフ様には、メイベル様が……」

「メイベル嬢か? 彼女は、セラフィナも知っての通り学業も優秀で今は数少ない女医として、将来産婦人科の医者を希望していると言うので、王家として医学の発達している国への留学なども支援することにしたんだ。そして、俺も将来セラフィナがそういう時には、診て欲しいという話はしていた。絶対に、女医が良いからな」

(うっそ! それ! どのヒーローも選ばなかったルートの、ノーマルエンド!! こんなに美男子のヒーローが居るのに、誰も選ばなかったの!? ラドクリフ様は別格として、ヒーロー五人と隠しキャラの一人……全員、物凄く魅力的なのに……信じられない……)

 もちろんそれは、ヒロイン役であるメイベル嬢本人が好きにすれば良い話ではあるのだが、どうしてもセラフィナは「もし私だったら、絶対ラドクリフ様ルートを絶対に選ぶのに」という気持ちになってしまった。

「なあ、セラフィナ……君の不可解な行動の理由も、だいぶ前から全部知っていた俺が、何故、この卒業パーティーまで、何もしなかったと思う?」

「え? ラドクリフ……様?」

 前世からの長い間、憧れだった顔が今までにない程にどんどんと近づき、息がかかる程まで傍に来た。

「両思いなのがわかってしまえば、俺が色々と我慢出来なくなるだろうから。一応、成人は待つことにした」

 さっと長身の彼は重いドレスを纏っているはずのセラフィナをこともなげに抱き上げて、事の次第をずっと見守っていた全員を見渡し告げた。

「ラドクリフ・スタンレーは、婚約者であるセラフィナ・サフィナーと近日中に結婚する! ここに居る、全員が証人だ! もし、結婚に文句がある奴は叩き潰すから、今から俺に言って来い!」

 彼の覇気ある声に呆気に取られて数秒沈黙に包まれたが、会場は若く身分の高い二人の熱いカップルの誕生に微笑ましいという笑顔と祝福の拍手の音に包まれた。