【コミカライズ】婚約破棄、したいです!〜大好きな王子様の幸せのために、見事フラれてみせましょう〜

「俺のことが! 大好きだろう!」

「……は?」

 婚約破棄されると覚悟を決めていたはずのセラフィナは間抜けな声を出して、固まった。

(は? なんて、言ったの? いや、そりゃそうだけど……てか、そうじゃないと、ヒロインのメイベル様に意地悪なんて……しないし……ここで、私婚約破棄されて退場する予定で……予定が……どうなってるの!?)

 そういえば、ラドクリフの隣にはメイベルはいない。通常のゲームの断罪の場面であれば他でもない彼に腰を抱かれて、こちらを怯えた表情で見下ろしているはずだ。

「……良く分からない理由ではあるが。俺の事を好きすぎるがゆえに、勝手に俺の幸せを決めつけた罪は重い。それを、償って貰いたい。返事を」

(だ……断罪って、こういう事!? なんか、通常の断罪じゃないけど……良くわからないけど……一応、王子様からのお達しだし、頷いとこう)

 強く出られたらノーと言えない前世の日本人気質が災いして、セラフィナは彼の言葉に何度も頷いた。

「……聞こえない。セラフィナ。肯定するのであれば、きちんと返事をしろ」

「え? ……あ、はいっ。私は、ラドクリフ王子が好き過ぎました。本当に、申し訳ありません。かくなる上は、婚約は……」

「良し。良くわかった。では、俺からもう無闇に逃げ回るのは、もう二度とやめろ。俺が幸せになって欲しいからとの理由で、他の女性を宛てがうのも金輪際やめてくれ。俺は婚約しているお前に何の不満もないのに、そういう事をするような不誠実な男ではない。意味のわからない、悪役令嬢ごっことやらもやめろ」

 その言葉を聞いて、セラフィナはばっと後ろを振り向きそこに居るはずのジェラルドを見た。珍しく嬉しそうに満面の笑みを浮かべているジェラルドは、飄々とした態度で「よかったですね」と声を出さずに言ったようだ。

(嘘! ジェラルドが、彼に言って……全部知られていたって事!? 全部、全部……私がラドクリフ様の幸せのためにと思ってやっていた事……全部!?)

 頭の中はぐちゃぐちゃで恥ずかし過ぎて、出来る事なら穴を掘ってその穴に一生閉じこもりたい。

 推しのことは世界で一番に愛しているし、心から幸せになって欲しいとは思っている。けれど、それを推しに、認識されたくない。幸せであって欲しいけど、それをするのは自分でありたいけど、彼には知られたくない。誰かが見れば完全に相反しているのだが、それはセラフィナの中では両立している想いだったのだ。