(いよいよだわ……断罪されるのって、ドキドキするわね)

 セラフィナは、いよいよ自らが断罪される卒業パーティーの会場へと足を踏み入れた。

 学園の大ホールで、卒業記念パーティーは、毎年大々的に行われる。ゲームのクライマックスとなる大事な場面でもあるので、観客も多い方が良いと思ってか在校生合わせて数多くの参加者が居た。

 こういう時には男女ペアで入場するのが通例なのだが、セラフィナには今回婚約者であるラドクリフのエスコートはなく、セラフィナにはこういう時の代打として相応しい年齢の近い男性の肉親もいない。なので、身分は持たないが、いつも傍に居るジェラルドが急拵えの正装姿でエスコートしてくれていた。

「こんなことになって、ごめんなさいね。ジェラルド……もし、ラドクリフ様が私の名前を呼んだら、断罪が始まる合図だから。素早く離れて頂戴ね」

「……お嬢様。俺を、卑怯者にしないでくださいよ。女の子が酷い目に遭うのをわかっていて、見捨てられるような人間ではありません」

 背の高いジェラルドはセラフィナに顔を寄せ眉間に皺を寄せ、憮然とした表情になった。セラフィナにとって彼は幼い頃から、ずっと傍に居てくれた大事な存在で、兄のような人だった。ラドクリフのような甘い恋愛感情は持ってないが、とても大事な人だ。

「いつも、ありがとう。ジェラルド」

 感謝を表すために、手を取って彼に近づこうとしたその瞬間。背を向けていた方向から、聞き覚えのある大きな声が聞こえた。

「セラフィナ・サフィナー公爵令嬢!」

(来たわ……)

 ゲーム内では、ヒロインがメインヒーローと踊ってから、断罪劇が始まる流れだったとは思うが、細かいことを気にしていても仕方ない。セラフィナは振り向き、割れる人垣をすり抜けて優雅に前に出た。

「……はい。こちらに」

 ラドクリフが、会場の奥の壇上に居てこちらを見下ろしている。貴族令嬢らしく王族に対する礼をして、彼を見上げた。

(こんな時でも……いつも通り、ラドクリフ様。素敵。どうか、メイベル様とお幸せに……)

「セラフィナ! お前……」

 会場に居るラドクリフ以外の全員が息を呑み、彼の発言の続きを待った。