「先輩、ごめんなさい。もう家、着くので」


目の前をみると、私の住んでいるマンションが見えてきていた。


「また明日。麻奈先輩」



暗くて表情は見えないけど、声で少し沈んでいるのが分かる。

喋らないから、余計な気を使わせてしまったかもしれない。



「ごめんね。お疲れ様」

「先輩も。また」


手を振ると振り返してくれた。

その手を、そのままぎゅっと握りしめる。


そのときだった。


「……麻奈先輩っ!」


鵜飼くんの、声が聞こえた。

気づくと、目の前にいて。



「どうしたの?」

「先輩っ、なにかあったら、俺に連絡してきて下さい」

「え……っ」


突然何を言い出すのか。


「っ、とにかく、それだけ、伝えたかったんです」



鵜飼くんはそう言って、来た道を戻っていった。