京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


「あら〜? 西野ちゃんだわ〜?」
 そう言って乃々夏はおっとりいつと首を傾げた。
 愛しい人が調べていたから知っていた、千田家の孫娘。こんなところまで足を運んだのは、彼女の従姉が朔埜とお見合いをする運びになったからだろう。

 従姉にいいように使われているなんて、乃々夏には信じられないけれど。
 ついでに先程彼女といた男性も知っている。折角調べた写真がくしゃくしゃになったと、辻口が顔を顰めていたからだ。

「あら〜、何だか良い雰囲気ねえ。どうしましょう〜、面白い事考えちゃったあ」

 自分の恋愛はあまり上手く行っていない。
 だから少しばかりお節介を妬いて、自分に有利に事を進めたいのだ。

「あ、辻口さぁん」
 この場でこのタイミングで、言われなくとも誰を探しに来たのか分かる。胸の奥に燻る嫉妬の火を誤魔化すように、するりと間近にある腕に、自らのものを絡めた。
「乃々夏お嬢様」
 窘めるような声は無視して、そのまま上目遣いで辻口を見上げる。
「ねえ〜、朔埜のところに行きたいの〜、エスコートして下さらない〜?」
「……畏まりました」

 絡めた腕をそっと外し、辻口は静かに首肯した。
(もう、もっと嬉しそうにしたらいいのに〜)

 主人が主人なら、使用人も使用人である。辻口の反応に不満を覚えるも、自分が描いた通りの絵がきっと描けたら楽しい。
(だからまあ、いいわ〜。許してあげる〜)
 そう考えて、乃々夏はふふっと笑みを零した。