「あら〜? 西野ちゃんだわ〜?」
そう言って乃々夏はおっとりいつと首を傾げた。
愛しい人が調べていたから知っていた、千田家の孫娘。こんなところまで足を運んだのは、彼女の従姉が朔埜とお見合いをする運びになったからだろう。
従姉にいいように使われているなんて、乃々夏には信じられないけれど。
ついでに先程彼女といた男性も知っている。折角調べた写真がくしゃくしゃになったと、辻口が顔を顰めていたからだ。
「あら〜、何だか良い雰囲気ねえ。どうしましょう〜、面白い事考えちゃったあ」
自分の恋愛はあまり上手く行っていない。
だから少しばかりお節介を妬いて、自分に有利に事を進めたいのだ。
「あ、辻口さぁん」
この場でこのタイミングで、言われなくとも誰を探しに来たのか分かる。胸の奥に燻る嫉妬の火を誤魔化すように、するりと間近にある腕に、自らのものを絡めた。
「乃々夏お嬢様」
窘めるような声は無視して、そのまま上目遣いで辻口を見上げる。
「ねえ〜、朔埜のところに行きたいの〜、エスコートして下さらない〜?」
「……畏まりました」
絡めた腕をそっと外し、辻口は静かに首肯した。
(もう、もっと嬉しそうにしたらいいのに〜)
主人が主人なら、使用人も使用人である。辻口の反応に不満を覚えるも、自分が描いた通りの絵がきっと描けたら楽しい。
(だからまあ、いいわ〜。許してあげる〜)
そう考えて、乃々夏はふふっと笑みを零した。



