京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


「いえ、ありがとうございます。親切に対応して頂いたお陰で、旅の良い思い出になりましたから」
 にこりと告げれば、少しだけ意外そうな顔を返された。
「タクシーのご用意ができました」

「あ、ありがとうございます」
 何か言おうと口を開きかけた葵が再び口を閉じる。
 コンシェルジュが用意した履き物を借り、史織は彼にもお礼を言った。……申し訳ないが古い靴の処分はお願いしてしまう。
「ありがとうございます、履き物は明日返しに来ますので」
「ええ。いつでも大丈夫ですから、災難でしたね」

「いえ……」
 コンシェルジュは曖昧に笑う史織をタクシーの元まで案内してくれた。むすりと押し黙ったままの葵も後をついてくる。

 普段ならタクシーは大袈裟な気がするが。知らない街を夜に一人でそぞろ歩くのは、今はご遠慮したい。

「……ライトアップでも見に来たん?」
 タクシーに乗り込んだどころで、葵がドアに手を掛けた。
「え? ……はい。折角京都に来たので、行ってみたかったのですが……」

 残念ながら明日には東京へ帰る予定だ。旅行の予定は二泊三日。初日は疲れてしまい、夜出掛ける元気が無かったから、ライトアップは今日しか行かれなかった。でももうそれはまた、来年にでもくればいい。

 旅行は楽しかった。まだまだ見られなかった場所もあるし、今回はここら辺でまた次回に持ち越そう。
 そんな思いを込めて見上げれば、葵はタクシーのドアを引いて車の中にその身を押し込んだ。
「──詰めて」
「えっ」