「何が違う……」
 朔埜は怯む事なく昏い目で史織を覗き込む。
「ふ、藤本君は恋人ではありませんし、仕事を放り出して遊んでいた訳でも、ないです……」
 ぎゅっと口元を引き結び答えると、一瞬躊躇ってから朔埜が視線を逸らした。
「別に……言いたくないんなら、ええ」
「だから、違いますって」
 何だかむくれたような顔をする朔埜に焦れてしまう。恋人の誤解は諦めてもいいが、不真面目な態度で仕事をしていたと認識されるのは不本意だ。
 指先を握り直し、俯きながら史織は言葉を続けた。

「わ、若旦那様がそう見えたのなら……私の接客は適切では無かったのだと思います。申し訳ありませんでした。でも本当に、遊んでいた訳ではありません」

 ただの片思いだったけど、今はもうそんな気持ちは無いのに。自分でも気付かない未練が、まだ残っているのだろうか。
 肩を落とす史織に朔埜が僅かに身動いだ。
 ……そう言えば前に竹林で会った時もそうだった。
 朔埜から感じる、気まずそうな気配。

 あの時はそのまま行ってしまったけれど、今朔埜は目の前で、身体を強張らせたまま微動だにしない。