京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 背中に乗ってゆらゆら揺られ。通りにある大きなホテルに入るとフロントから人が出てきた。
「葵さん」
 男性が史織をソファに下ろしていると、落ち着いた風貌のコンシェルジュが声を掛けてくる。

「あのさ、こいつに何か履くもの用意してやってくれん? それからタクシーの手配」
「畏まりました」
 一つも淀む事なく綺麗な礼を返し、立ち去るコンシェルジュを目で追ってから。史織は葵と呼ばれた男性を振り返った。

「あの、本当にありがとうございました」
「礼なんていらん。……あんた観光客やろ。こっちは地元民なんやから当然や」

 史織はきっとそんな様子だったのだろう。だから彼は声を掛けてくれたのだ。
 それに、注意深く観察してみると、ふいと目を逸らす仕草といい、つっけんどんな物言いといい……実は好んでそうしているようには見えない。

 立ち往生して困った様子の観光客を放っておけないと思ったのではなかろうか。
(良かった、優しい人みたい……)

 そんな葵に人の良さを感じ、史織はふっと息を漏らした。