京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 
「実はその。靴を、壊してしまったので……」
「はあ?」
「……」
 仕方なしに足を持ち上げて、その場に靴底だけ残る無残な姿を示した。
「……はあっ?」

 同じ反応を二度されたので、こちらも同じ事を二度してみる。さっきとは左右を逆にして。

「ちょっ……待てあんた、何やのそれ? 言えやって、そんなん……まあ、そうか。うん……流石に俺も予備の靴は持ち歩いてはいないけど……」

 そう言って男の人は口元を覆い屈み込んだ。何となく震えて見えるのは気のせいだと思いたい。
(ああ、恥ずかしい……)

 史織の足を凝視するその姿に羞恥が込み上げる。
「あの、それで恥ずかしくて……すみません、言えなくて……」
 視線を逸らしつつ、何とか口にする史織の言葉を全て聞く前に、男性はくるりと後ろを向いた。

「……そっか、ほな」
 そうして彼はそのまま史織に背を差し出してきた。
「……?」
「おぶってやる。乗り」
「……! や、それはちょっと!」

「いーから乗れゆうてる、知り合いが近くにいるから履物くらい何とかなるやろ」
「えっ、あ……」
「ほらっ、この体制は疲れる。はよ乗れって」
「うう……はい。ありがとうございます」
 言われるままに肩に手を掛けて、体重を乗せた。

「重っ」
「ごごごめんなさい……」
 とは言えズボンで良かった。内心でホッと息を吐く。
「すぐそこのホテルや」
 けれどその言葉にびくりと反応してしまう。
「……連れ込もうだなんて思っとらんから安心せえ」
 見透かされたような冷ややかな空気に史織は羞恥で縮こまった。
「……ごめんなさい」