京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「……」
「……」

 そのまま気まずげに立ち尽くす史織だが、何故か男の人も立ち去らなくて困惑する。
 そっと見上げれば彼は眉間に皺を寄せ、仁王立ちのままだ。

「何してんねん、早よ行けや。こんなところで一人でボケっとしてたらまた絡まれるやろ。お前みたいに観光丸出しの隙だらけな女はいいカモや」
 男の人の苛立ちの原因はこれらしい。
 確かにここにいてはまた同じような事があるかもしれないのだから。動かない史織に焦ったく感じるのも無理は無い。が……

「……その、お構いなく」

 動けないので仕方がない。
 史織は目を彷徨わせた後、何とかそれだけ口にした。
 しかし動こうとしない史織に男の人はどう思ったのか、彼もまた僅かに身動ぎしただけで、やはり動かない。
「何でや、俺の言いようが気に入らんくて意地でも張ってるんか? 下らないでそんなもん」
「いえ、そうではなくて……」
 流石に壊れた靴を持ち、靴下で立ち去る姿は見られたくない……

「えーと、素敵な街並みだなー。なんて……もうちょっと見ていてもいいかなあ、と」
「……ふうん」

 何となく愛想笑いでごまかしてみる。
「あの、助けて頂いてありがとうございました」
 だから早く立ち去ってくれないかな、なんて願いを込め、史織は改めて頭を下げた。

「ふん、もういいわ。アホらし、ほなな」
 踵を返す男性にホッと息を吐き出すのと、史織の背中に誰かがぶつかるのはほぼ同時だった。
「……あっ」
 がくんと身体が傾ぐ。
「あ、ごめんなさい」
 思わずたたらを踏む史織に目礼だけして、その人は通り過ぎてしまったけれど。
「……何やそれ」

 壊れた靴。
 男性にはばっちり見られてしまった。