細やかな疑問から目を背け、自分の仕事は四ノ宮 朔埜の浮気(?)調査なのだと改めて気合いを入れる。
「こちらへどうぞ」
物思いに耽っていると、いつの間にか奥の間へと辿り着いていた。凛嶺旅館は特室とは別に、一般的な宿としても有名な旅館である。
史織が訪れたのは母屋だが、古い宿に増改築を繰り返しているようで、酷く道が入り組んでいる。
果たして自分はどこをどうやってここまで来たのだろう。
後ろを振り返れど、紅葉に染まる庭園に面した渡り廊下の、その先に見える扉をくぐった覚えもないくらい、どう歩いたのかの記憶もない。
(ここで働くって、本当に大丈夫かしら?)
「三芳さん、西野さんがお見えですよ」
密かに案じていると、案内人が襖の中へと声を掛けた。
「入って下さい」
どうぞ、と促す案内人に従い、史織は恐る恐る襖を引いた。



