京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 細やかな疑問から目を背け、自分の仕事は四ノ宮 朔埜の浮気(?)調査なのだと改めて気合いを入れる。

「こちらへどうぞ」
 物思いに耽っていると、いつの間にか奥の間へと辿り着いていた。凛嶺旅館は特室とは別に、一般的な宿としても有名な旅館である。
 史織が訪れたのは母屋だが、古い宿に増改築を繰り返しているようで、酷く道が入り組んでいる。
 果たして自分はどこをどうやってここまで来たのだろう。
 後ろを振り返れど、紅葉に染まる庭園に面した渡り廊下の、その先に見える扉をくぐった覚えもないくらい、どう歩いたのかの記憶もない。
 
(ここで働くって、本当に大丈夫かしら?)
 
三芳(みよし)さん、西野さんがお見えですよ」
 密かに案じていると、案内人が襖の中へと声を掛けた。
「入って下さい」
 どうぞ、と促す案内人に従い、史織は恐る恐る襖を引いた。