京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 西野 佳津那(にしの かずな)
 史織が凛嶺旅館に行く間の仮の名前である。
 
『頑張れ頑張れ。し、お、ちゃーん』

 母の応援を聞くともなしに背中に聞き。
 自室に戻った史織は、手渡された釣書を恐る恐る開いた。
「イケメンさん……」
 
 四ノ宮 朔埜(さくや)──

 黒髪にスーツ姿の青年は、切長の眼差しが鋭く、意思が強そうな人だ。真っ直ぐに向けられた瞳はこちらを睨んでいるようで、思わず目を逸らしたくなる。

 釣書なんて見るのは初めてだけれど……確かにこの人は顔が良い。麻弥子が悩むのも無理がないし、この人に恋人がいないというのも、確かに疑わしい。 
 そんな事を考えていると、ふと史織の頭に不安が過った。

「そもそも彼女がいない証明って、どうやるの……?」