西野 佳津那
史織が凛嶺旅館に行く間の仮の名前である。
『頑張れ頑張れ。し、お、ちゃーん』
母の応援を聞くともなしに背中に聞き。
自室に戻った史織は、手渡された釣書を恐る恐る開いた。
「イケメンさん……」
四ノ宮 朔埜──
黒髪にスーツ姿の青年は、切長の眼差しが鋭く、意思が強そうな人だ。真っ直ぐに向けられた瞳はこちらを睨んでいるようで、思わず目を逸らしたくなる。
釣書なんて見るのは初めてだけれど……確かにこの人は顔が良い。麻弥子が悩むのも無理がないし、この人に恋人がいないというのも、確かに疑わしい。
そんな事を考えていると、ふと史織の頭に不安が過った。
「そもそも彼女がいない証明って、どうやるの……?」



