京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 急に出された弟の名前に、気づけば史織は即答していた。だって他に適任者がいないような事を言っておいて。
 ミッションをやり遂げる自信は無いが、旅館には行ってみたい。どうしても。
 という訳で史織は観念して居住まいを正した。

「彼女がいるか、見てくればいいのよね?」
 それなら誰か人を捕まえて、聞いてみれば分かるかもしれない。というか、それ位しか思い浮かばないけれど……
 史織が方法を模索していると、母は合わせた両手を頬に付け、にっこりと身をくねらせた。

「そうよー。住み込みの仲居として、潜入捜査よー」
「え……」

 史織は思わず固まった。
「……住み込み? どさくさに紛れて入り込む。とかじゃなく、て……?」
 
 固めていた決意から、ふしゅーと何かが抜ける音がして。
「やるって言ったわよ、ね?」
 母の止めの一言が、頭に響いた。