「……り、旅館に泊まって、何を調べるの?」
史織は視線を彷徨わせながら、ぼそぼそと口にする。
「違う違う、それじゃ内情なんて分からないじゃない〜?」
「え……?」
しかし母は立てていた指先をチッチッチと左右に振ってから、きらっと瞳を瞬かせた。
「ずばり、潜入捜査よ!」
……何を言い出すんだろう、この人は。
二人の間に微妙な空気が横たわる。
「……あのね、お母さん……どうやって? 流石に私、そんなのはテレビドラマでしか見た事無いんだけど……一宿泊客じゃ無理な話でしょう?」
「ふふん。だから〜、宿泊客じゃないんだな〜。しおちゃんには凛嶺旅館に仲居として潜入して貰います!」
びしっと史織に人差し指を突きつけて。
母は無謀を言い切った。



