勿論コネも何も無く入社したので平社員である。入社二年目の、まだまだ仕事も新人に毛が生えた程度のものにしか携われないし、企画審議が通った通らないで一喜一憂しているような状態だ。
そしてそんな企画書のグレードを上げる為にも、史織の趣味は仕事に大事な材料となる。
凛嶺旅館の噂は業界でも有名だ。
一般枠でも簡単に予約が取れない上、特室は一生に一度縁があるかないか分からないとまで言われている部屋。一見さんは絶対に入れないなんて話もあり、旅行ファン心理を擽る、憧れの宿である。
しかもかの旅館は史織が勤めている会社は付き合いが無く、記事すら取り扱わせて貰えない。
旅行会社も限られており、勿論メディアお断り、絶対き入り込めない超プライベート空間。
憧れの宿──凛嶺旅館……
旅好きであり、好きが高じて仕事にまでなった史織には是非一泊させて欲しい宿屋である。
「ふふーん、お母さんがSHAPのLIVEに行きたい気持ち、少しは分かったんじゃないかしら〜?」
「うぐっ」
確かに良く分かる……



