訝しみながら観察していると、油断が生じ小枝を踏んでしまった。足元からパキリ、と乾いた音がする。
 音に釣られて振り向いた顔とばちりと目が合い、昂良は息を飲んだ。
「……とっ」

 言いかけた言葉ごと、昂良は慌てて唾を飲み込んだ。
 ──父さん
 そう口にしそうな程、目の前の少年は父によく似ていた。
 心臓がばくばくと鳴る音が、昂良の身体を駆け巡る。
 つまりこの男が、自分の兄……
「……ふっ」

 思わず笑いが込み上げそうになる。
 兄だなんて警戒していた母に話してやりたい。やってる事はただの使用人の仕事じゃないか。父の考えが合っていた。
 僅かに覚えていた不満も、今この光景を目にした事で吹き飛んだ。旅館の相続とは言ってもその実権は父、()いては自分の物なのだ。つまり彼は所詮使用人の域を出ない。
 抱えていた靄が晴れるような気分と共に、強張っていた身体が弛緩していく。

 そんな昂良の内心を見透かしたように、兄は薄らと笑みを作った。そのどこか怪しげな表情に昂良の背がぞくりと泡立つ。
 青く茂る庭園の中、ゆるゆると立ち込める煙と火の爆ぜる音が、兄と二人の空間へと昂良を包んでいく。
「こんにちは、どちらへお出掛けですか?」
「……っ、庭園を散歩しているんだ。いいだろう、別に!」
 忍び込んだ後ろめたさは多少あるから、客の振りを装って誤魔化そうと試みる。
 けれど兄は笑みのまま、首をことりと倒した。