京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


「なあ、史織さん。あんたはあの子に二親がいない事を知っておるかね」

 突然の話に固まってしまう。
「いいえ……存じませんでした」
「そうか……ああ、失礼。何というか……親はいるんだが、育てて貰えんかったんじゃ。その片方は儂の息子じゃけどな。不憫な事をしてしまった」

 史織は思わず息を詰めた。
 史織は両親と一緒に過ごしてきたし、勿論養育して貰っていた。学生時代、片親の子には会った事があるけれど、二親に恵まれない話は初めて聞いた。
「それは、大変でしたね……」

 水葉は苦い笑いを零すのみだ。
 史織も他に何と言っていいのか、分からない。きっと史織では分からない苦労に耐えてきたのだろうし、易々と掛けられる言葉は無いだろうけれど。
 ──水葉は、そうだな。と静かに頷いた。

 後悔をしているようで、ただ昔話をしているだけのような。そんな流れで彼は続ける。