史織はぎゅっと葵の服の裾を握った。
はっと振り返る葵ににこりと笑いかける。
「あの……もうここまでで大丈夫です、親切にして頂きありがとうございました」
「……え」
口を開けたまま何も言えなくなる葵に少しだけ胸が軋むけれど……元々旅先でほんの一時行き交っただけの関係だ。きっと直ぐに忘れるだろうし、懐かしむ思い出だけあれば充分だ。
「さよなら」
それだけ言って史織は踵を返した。
「待っ──」
葵の言葉を振り切って、人ごみに紛れ先を急ぐ。
不思議と早足になるのは何故だろう。
何かに追われるような気がして、気付けば史織は後ろも振り返らずに駆け出していた。



