京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 史織はぎゅっと葵の服の裾を握った。
 はっと振り返る葵ににこりと笑いかける。

「あの……もうここまでで大丈夫です、親切にして頂きありがとうございました」
「……え」

 口を開けたまま何も言えなくなる葵に少しだけ胸が軋むけれど……元々旅先でほんの一時行き交っただけの関係だ。きっと直ぐに忘れるだろうし、懐かしむ思い出だけあれば充分だ。

「さよなら」
 
 それだけ言って史織は踵を返した。
「待っ──」
 葵の言葉を振り切って、人ごみに紛れ先を急ぐ。
 不思議と早足になるのは何故だろう。
 何かに追われるような気がして、気付けば史織は後ろも振り返らずに駆け出していた。