京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 大学の課題で、誤解されそうな近さで寄り添っている。けれど、浮かんだ疑問を口にして、このあやふやな関係を壊してしまうのは、何だか野暮な気がする。

 それなのに、今だけだからと思いながら、その距離をもどかしく思ってしまうのだから不思議に思うけれど。

 それでも最初よりずっと緩んだ表情をしている隣の葵に嬉しく思っていると、ふとその顔が強張った。

「あ、葵だー」
「何してんのー?」

 さっきまで凪いでいた彼の横顔に険悪さが混じる。
「……別に何も」
 そんな葵の様子を気にした風もなく、友達だろうか。同じ年頃の男女がこちらに近づいてきた。

「あれ、乃々夏やないやん」
 史織の顔を覗いた男性が発した言葉に、史織は慌てて繋いでいた手を離した。葵がはっとこちらを向いたのが分かったが、振り返る事は出来ない。

 だって乃々夏……それはきっと女性の名前だ。
 葵を見上げれば強張った顔のまま、黙って史織を二人から隠すように立ち塞がった。
「誰だっていいやろ、何か用か?」

「……え? いや、別に」
 気まずそうに視線を交わす男女に史織の気持ちが焦り出す。

 このままでは何か誤解されてしまうかもしれない。