京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


「わあ」
 タクシーを降りて見上げれば、暗がりに浮き上がる幻想的な風景が見渡せた。きらきらと照らされた照明の中にも情緒があり、昼に見て周った寺院の雰囲気とガラリと違う。けれど、とても綺麗だ。

 興奮に辺りを見回していると、葵が手を出してきた。
「暗いから気をつけえ……ほら」
 その手に目をやり、史織はぱちくりと目を瞬いた。

「──っだから、ただの親切やって!」
「は、はいっ。足元が暗いからですね!」
 慌ててその手を掴めば、葵はびくりと反応した。

「そうやろ、普通転ぶからな」
「……ありがとうございます」

 そう言ってから史織はくすりと笑った。
「何や……」
「いえ、素敵な課題だなって、沢山嬉しい気分になっています」

 あとは人は見かけによらないなあ、なんて少しだけ。けれど嬉しくなってしまう。

「なら……良かったと、思う」
 ぎゅっと手を繋いで、隣に誰かがいて。
 何だかこんなのは久しぶりだなんて思い、ふと疑問が浮かぶ。けれどそれを口にするのは憚れて、口数は段々と少なくなっていく。
 
 高台寺は秀吉の妻、寧々が建立した寺だ。
 そのせいか、その趣はどこかたおやかで美しい。

 そんな中だから、特に何も言わなくても、紅葉と景観に感動しているように見えるだろう。
 知らない土地で、知らない誰かと一緒に、何だか夢の中を歩いているような気分になる。
 そぞろ歩いて雰囲気を楽しむだけだけれど、とても楽しい。

(いいのかな)
 ちらりと見上げる。
 
 もしかしたら決まった人がいるかもしれないのに……
 先程頭を掠めた疑問が再び持ち上がる。
 いい人だから、そんな相手がいてもおかしくないのだ。