「わあ」
タクシーを降りて見上げれば、暗がりに浮き上がる幻想的な風景が見渡せた。きらきらと照らされた照明の中にも情緒があり、昼に見て周った寺院の雰囲気とガラリと違う。けれど、とても綺麗だ。
興奮に辺りを見回していると、葵が手を出してきた。
「暗いから気をつけえ……ほら」
その手に目をやり、史織はぱちくりと目を瞬いた。
「──っだから、ただの親切やって!」
「は、はいっ。足元が暗いからですね!」
慌ててその手を掴めば、葵はびくりと反応した。
「そうやろ、普通転ぶからな」
「……ありがとうございます」
そう言ってから史織はくすりと笑った。
「何や……」
「いえ、素敵な課題だなって、沢山嬉しい気分になっています」
あとは人は見かけによらないなあ、なんて少しだけ。けれど嬉しくなってしまう。
「なら……良かったと、思う」
ぎゅっと手を繋いで、隣に誰かがいて。
何だかこんなのは久しぶりだなんて思い、ふと疑問が浮かぶ。けれどそれを口にするのは憚れて、口数は段々と少なくなっていく。
高台寺は秀吉の妻、寧々が建立した寺だ。
そのせいか、その趣はどこかたおやかで美しい。
そんな中だから、特に何も言わなくても、紅葉と景観に感動しているように見えるだろう。
知らない土地で、知らない誰かと一緒に、何だか夢の中を歩いているような気分になる。
そぞろ歩いて雰囲気を楽しむだけだけれど、とても楽しい。
(いいのかな)
ちらりと見上げる。
もしかしたら決まった人がいるかもしれないのに……
先程頭を掠めた疑問が再び持ち上がる。
いい人だから、そんな相手がいてもおかしくないのだ。



