「俺は──一過性のものにのぼせ上がったりせん……」
「……ほおう」
 顎を摩り、祖父が半眼を向けて来た。
「随分長い一過性じゃのー」
「……っ、うるさいわ。それに、乃々夏との約束もある。下手な事は出来ん!」

「え、あたし〜? 呼んだ〜?」
 急に背後から掛かった声に朔埜はびくっと後ろを振り向いた。
「うお、乃々夏やんけ。気配断って近付くなや……てか何してんねん、こんなところで」

「大旦那様〜、お久しぶりです〜」
 朔埜の台詞をまるっと無視して乃々夏は身をくねらせて祖父に挨拶をしていた。
「はいよ、お久しぶり乃々夏ちゃん」
 かくいう祖父も嫌な顔一つ見せず、にこにこと返事を返している。
 当主が住まう奥座敷に、招かれもせず踏み込むのは乃々夏くらいのものだろう。