京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜


 相変わらず不機嫌そうな、その空気に気圧されして史織は奥へと身を引いた。その空いたスペースに身を収める葵を思わず凝視する。
「……ついでだから手伝ってやるわ。大学の課題やねん、人に……親切にするの」

(あ、大学生だったんだ)
 もっと年下かと思った。いや、それより──

 どんな課題なんだろう。
 口にしてはいけないような気がして黙っていると、前を睨みつけている彼の横顔の、その目元が薄らと赤くなっているのが見えて、思わず力が抜けてしまう。
(照れてる……)

「それは……いい大学ですね」
 思わず笑ってしまえば、葵も気を良くしたように口の端を吊り上げた。

「そうやろう。んで、どこに行こうとしてたんや」
「高台寺です。知り合いから聞いて」
「ふうん」
 高台寺のライトアップは綺麗だったと、以前友人から聞いた話が耳に残っていたのだ。たったそれだけだったけど、史織が数ある見どころから選ぶには充分な理由だった。

 ガイドブックを見ていても気になったし、楽しみにしていた場所だ。だから行けないと萎んでいた気持ちが再び期待に溢れる。

「楽しみだったんです、ありがとうございます」
「……別に」
 益々笑顔になる史織からさっと視線を逸らし、葵は運転手に高台寺行きを伝えた。