「…なら、生かそう。僕らが一緒にいる未来を」


彼が顔を寄せ、優しく羽のような口づけを落とす。


「……それは殺すべき未来じゃない。僕らにとって、生かすべき未来だよ」

「まどか……」

「このまま過去の二の舞になるのが怖いと君が言うのなら、そうならないための方法を、一緒に見つけよう」


重なった唇から温もりが合わさって、言いようもない幸福感に包まれる。


(あぁ、そっか…)


たとえこれが私の願望が作り出した夢だとしても。

もう、迷ったりしない。諦めたりしない。


――私の本心(こころ)は、ここにある。


「………なんて幸せな夢なのかしら」


たった一時でも、記憶のある彼との逢瀬が叶うなんて。


「…………夢?」


ぽつりと零れた私の呟きにきょとんとした彼が、首を傾げる。

その様子にほんの少しの違和感を覚えた時、


「………透けてる」


薄れ始めた自分の手を見て、次に目の前のまどかを見る。

私たちは二人とも、暗闇の世界からその姿を消そうとしていた。


(黄泉路なんかじゃなかったわね)


口元に小さく笑みを浮かべ、私は彼に向き直った。



「まどか。夢でも、あなたに逢えて嬉しかった。……私、諦めないわ。だから見守っていてね」



すべての出来事を覚えている愛しい夫との逢瀬の時間は、もう終わり。


……目を覚ませば、私の前に立つのは記憶のない高校生のあなたなのでしょう。


それでも、この思いは永遠に変わることはない。

過去のあなたも、現在のあなたも、今目の前にいるあなたも。


「愛してる、まどか」


「っ」


まどかが消えかけた手を伸ばし、私の手首をつかんだ。


そして、



「俺も、珠緒が好きだよ」



「……え?」




万感の想いが込められたかのような、切実な声に目を見開いた瞬間。


目の前が真っ白になった。