(やっぱり、………好きだ)
「嫌い」と言われて嫌い返す。
ぶっきらぼうに接されて、不愛想に接し返す。
そのどれもが、今となってはただの意地だったのだと思い知る。
どれだけ嫌われようが、どれだけ無下にされようが、どれだけ望みが薄くても。
(俺は、珠緒が、好きだ)
そうでなければ、この泣き出したいほどの安心感と、幸福感に説明がつかない。
腕の中に彼女がいて、息遣いを感じて、優しい香りに包まれる。
(そうだ。………俺は、ずっと)
――この瞬間に、焦がれていた。
幼い頃から抱えていた、胸に穴が開いているような寂莫とした気持ち。
面倒事が起きるのが嫌で、何の感情もなく抱きしめ返した体温に覚えた、堪えがたい不快感。
「………たま」
透けた髪の間に指を差しいれ、今一度、強く彼女を抱きしめる。
「…珠緒」
過去になりゆきで彼女を抱きしめたことはあったが、今まで自分から意図的に避けていたこともあって、感慨はひとしおだった。
それもこれも、全部、俺のせいなのだが。
思い出してまた微かに頬を熱くしながら、彼女の表情を見ようと少しだけ体を離す。
しかし。
「たま?」
「…………」
当の本人は気を失ったように、俺の胸に頭を預けて眠り込んでいた。
浅い呼吸が聞こえてくるが、それほど深刻そうな息遣いではないことにひとまず安堵する。
白い頬に手を滑らせると、まるで俺の肌の熱を吸い込んだように仄かに温もった。
「……ん?」
ふと、視線を移した彼女の髪。
真白い髪が生え際から毛先に向け、徐々に透き通った茶色へと戻り始めていた。
不思議に思いながらも指で梳き、しばらくその様子を観察していたが、階下から物音が聞こえて屋外だったことを思い出す。
そう、ここは2階建てアパートだ。
他の住民もいるわけで。