「俺に居座られても迷惑なだけだろ?近所に誤解されても困るし……でも、本当に無理だったら、絶対に誰かに助けを求めるんだぞ」
「…まどか」
小さすぎる呼びかけは、彼に届いたのだろうか。
一瞬にも、永遠にも感じられる時間の後、彼はぽつりと言った。
「俺には言えなくても。そう、例えば……『あんたのまどか』なら、助けてくれるだろ?」
「っ」
寂しげに発されたその一言で、私の中に様々な感情が溢れかえった。
悔しくて、切なくて、悲しくて。
――あなたに心配されて、迷惑なんて思うはずがないのに。
――ほかでもない、あなたが相手だから、こんなに苦しいのに。
見開いた目から、ボロボロと涙が頬を伝い落ちていく。
(まどか)
――あなたが、まどかなの。
(………まどか)
――あなたが、わたしの、まどかなの。
(行かないで)
考える前に、私はかじかんだ手で扉の鍵を開け、ドアノブを回していた。
裸足のまま、玄関から飛び出して、今にも去ろうとしていた背中に叫ぶ。
「まどか!」
外廊下に差し込む真昼の日差しの中に、私の真白い髪が踊るのを見た。